副作用に悩んだ遠い道のり
当院には、他県から来院される方も多くいます。埼玉県のRさんもその一人で、東京を通り越してわざわざ横浜までやってきます。
Rさんが初めて受診されたとき、一目でステロイドの副作用が確認できました。顔が腫れ上がり(ムーンフェイス)、毛深く、首の後ろから肩に脂肪がついている(バッファローハンプ)典型的な症状です。
Rさんは、三十歳の女性。近所の医院にぜんそく治療で通院して十数年。長きにわたって誤った治療を受けてきた結果が、彼女の身体には現れていました。おまけに、ぜんそくは治らず、医療に対する不信感を抱いていた彼女の姿に愕然とさせられました。
Rさんには吸入ステロイド中心の治療を行った結果、ぜんそく症状は落ち着き、身体に現れていた副作用の症状も少しずつではありますが改善されつつあります。
初診時、Rさんは尋ねました。
「わたしみたいにひどい患者さんは見たことがないでしょうね」と。
正直言って、これほどまでひどい副作用の症状は見たことがなかったのですが、不信と不安を抱え、遠方よりやってくるRさんに対して、肯定できるわけがありません。
「ひどい人はいくらだっていますよ。皆、治っているから頑張ろうね」
と答えたのでした。ぜんそくの症状が落ち着いてきた頃、彼女が言った一言「治るから頑張ろうの言葉が励みになりました」は、私のほうが励みになりました。
くり返し述べることになってしまいますが、正しい用量・用法を守れば、ステロイドは危険なことはなく、たいへん有効なのです。誤った知識が、「少量なら安全」という歪んだ知識へと変質し、それがかえってぜんそくを悪化させてしまうことになります。Rさんは、まさにそんな見本的な事例となってしまいました。
話は変わりますが、Rさんへの配慮は、実は私自身にふりかかった体験からでした。むち打ちになり、精神的にも大きなダメージがあったとき、友人のペインクリニックの医師から言われた言葉が「必ず治る」でした。この言葉は、暗闇の中のひとすじの光となりました。
どうやら医師に求められるのは、正しい知識ばかりではなさそうです。