専門医への定期通院が危機管理の第一歩
これまで述べてきたように、救命救急センターに勤務していたころは、生死の境をさまよう例を多く見てきました。気管支内挿管を必要とした重篤な方のうち約半数が命を落としているという事実は、皆さんにとっても衝撃的なのではないでしょうか。
命が助かっている方の特徴としては、その多くが日ごろから定期的にかかりつけの医療機関に通院していたということと、救急車を呼ぶなどSOSの判断をご自身がしていたということです。つまり、ぜんそくについての正しい知識を持ち、どのような症状が出たら危険なのかということも知っていたということになります。
近ごろ、「危機管理」という言葉があらゆる場面で使われるようになってきましたが、ぜんそくの方、あるいはそのご家族にとっても、実は重要なキーワードなのです。
開業医となった現在は、命にかかわる方を診ることは少なくなったものの、「危機管理」を考えさせられたいくつかの事例に遭遇しました。その一人であるCちゃんは、口コミで当院に駆け込んできた幼いお子さんでした。
Cちゃんのお母さんからこれまでの事情を聞くと、複数の医療機関に通院していたにもかかわらず、治療が不十分だったために中等症程度の状態にまで悪化させていたことがわかりました。はじめから悪かったわけではなかったのです。
事態は予想外の展開となりました。治療によりCちゃんの発作はいったん治まったものの、再発作により、なんと呼吸が止まってしまったのです。
院内が緊張感に包まれる中、救命処置により一命を取りとめることはできました。が、発作が起きる前に当院で治療を受けていなかったらと思うと、最悪の事態を思い起こさせました。私自身に救命救急の経験があったことも幸いしたと思います。
ぜんそくの治療というものは、それほど難しいものなのです。正しい診断と治療を受けていなければ、命の危険にさらされてしまうのです。
今、Cちゃんは定期的に通院し、コントロールもうまくいっています。が、この事例では、大きな問題提起をしてくれました。「危機管理」という問題です。ぜんそくについての正しい知識を身につけ、専門医に定期的に通院すること。これが、危機管理の第一歩なのです。
このことを多くの方に理解していただくことが、当面の私の課題です。